教材開発・探求学習支援プログラム2025[保育×アート]
「子どもたちがどんな視点で、どんな発見をするのか」Humming Earth Project 終了後インタビュー
写真:yixtape
【教材開発や探求学習を支援する助成プログラム】において、訪問保育ひかりの保育士・川田由紀さんと連携して、教材開発を行ったダンサーの鈴木明倫さんとギタリスト山木将平さん、アーティストのNOJIさん(野沢宏志さん)の3名に、振り返りのインタビューを実施しました。
実施内容について
川田さんは、事前リサーチとしてアーティストとのトークセッション「教育者 Meets アーティスト」に2回参加。各回で斉藤幹男さんと秋元さなえさんと対話し、それぞれのアーティスト活動やアートについての想い、アートの可能性について考えを深めました。
その後、ダンサー鈴木明倫さんとギタリスト山木将平さん、アーティストのNOJIさん(野沢宏志さん)との打ち合わせを経て、市内ダンススタジオでトイレットペーパーを使った表現遊びのワークショップ(約60分間)を行いました。
▶教育者 Meets アーティスト 「斉藤 幹男×川田 由紀」
https://artkids-net.com/ema-1-1/
▶教育者 Meets アーティスト 「秋元 さなえ×川田 由紀」
https://artkids-net.com/ema2-1/
連携する前に考えていた目標設定
昨年度「放課後アート秘密基地」の企画に参加し、身体を使って絵を描くという、遊びを取り入れたワークショップを(今回のメンバーである)ギタリストの山木さんと美術の野沢さんと一緒に行いました。今回もその経験を踏まえて、まずは楽しくやってみようという気持ちで参加しました。
私の活動の一環で、ダンサーとして活動していない方(役者や子どもたち)を対象にインプロビゼーション(即興)のワークショップを行うことがあります。その時に、ティッシュを手のひらに乗せて空気抵抗で身体を使ってみるという遊びをよく取り入れています。今回のトイレットペーパーの遊びもそのアイデアを発展させました。トイレットペーパーを無限に出すというのは、家庭ではなかなかできない特別な体験になります。制限のない中で子どもたちがやりたいことを思いきりやったらどうなるのかという点にも興味がありました。
また、日常生活では用途が限定されているトイレットペーパーを遊びに使うことによって、トイレットペーパーの使い方を多角的に見ることができるという点も考えました。子どもたちがどんな視点を持ち、どんな使い方を発見するのか、そして私たち大人の凝り固まった概念をほぐす機会にもなるのでは?とワクワクしました。
私の担当は音楽なので、音の流れや音色によって、その場の時間や空間を演出するようなイメージを当初は持っていました。音の速さや曲調の変化によって、子どもたちの動き方に影響を与えることができるのではないかと考えていました。当日子どもたちを迎えてみると、予想よりも緊張が強かったので、今回はまずは子どもたちの緊張に寄り添い、子どもたちのさまざまな視点や自由な表現を支えるような演奏を意識することになりました。
昨年度の取り組みでは題材として絵の具を使ったので、私にとっては馴染みのある領域で、直観的に取り組むことができました。今回はトイレットペーパーを使った身体表現ということで実験的な要素が大きく、視覚的に面白い空間を作るというイメージ以外は手探り挑みました。アートには、絵を描くだけでなくさまざまな表現の可能性があります。身近なものから新しい表現を発見したり、楽しみを見つけたりすることがアートの核心的なポイントなので、今回トイレットペーパーという身近な素材から人生の楽しみのようなことが見つけられたら面白いなと思っていました。
三人は多彩な分野で連携してプロジェクトを行う経験値があり、またそれぞれが即興性に優れたアーティストです。川田さんのビジョンを形にするにあたって、良いコラボレーションになると思って協力をお願いしました。昨年度参加の経験もあり、継続的に関わってもらえる点も良かったと思います。
取り組みの中で印象に残っていること
昨年の「放課後アート秘密基地」では、子どもたちが自由に遊んだものが最終的に一つの作品になったことがとても印象的でしたので、今回も単に「楽しかった」というだけで終わらせるのではなく、このワークショップの時間や空間自体が作品になることをイメージしながら動きました。ただ、今振り返ってみると、私の方で少しアイデアを出し過ぎてしまったかもしれません。事前にもう少し川田さんの思い描く空間作りや、アーティストをどう使いたいかということについて丁寧にヒアリングした方が良かったのではないかと反省しています。
逆に、昨年度の経験を踏まえて改善できたこともあります。昨年度の取り組みでは、全体の構成や大体の時間配分を決めていたのですが、その結果気づかないうちに子どもたちを誘導するような場面もありました。多様な年齢や性格の子どもたちの表現方法は幅広く、彼ら全員が同じように動くわけがありません。子どもたちがそれぞれに感じることをもっと大切に見守っていきたいと思い、今回は細かい時間配分は行わず、極力誘導しないように気をつけました。最初は「何をすれば良いんだろう」と緊張感が漂っていたので、私自身がトイレットペーパーを引っ張ったりちぎったり身体に巻き付けたりと、遊びのエッセンスを提案しました。徐々に慣れてくると、自分で遊びを見つけたり表現したりする子どもが増え、表情も柔らかく変化しました。環境さえ用意すれば子どもたちは自分たちで面白みを見つけていくのだと確信しました。
「感触」に焦点をあてた遊びの教材開発ということを軸にしていたので、打ち合わせでは、まずは具体的に何ができるかというアイデア出しを行いました。当日までさまざまな意見をどんどん出し合っていたので、あまり具体的に決めずに自由さや余白を残した状態で本番を迎えました。
一番印象に残っているのは、子どもたちの集中力です。途中で飽きる子どもも出てくると予想していましたが、そんなことは全くなく、みんなそれぞれ好きな遊びに熱中していました。音楽によって子どもたちの行動にアクションをかける必要がなかったので、子どもたちの集中力を邪魔しないように、子どもたちに寄り添うような演奏になりました。私自身も後半はギターを弾きながら子どもたちの中に入っていき、一緒に戯れながら演奏していました。常に子どもたちの動きや表情を見て情報交換を行いながら。まさにインプロビゼーションの世界でした。
普段の活動ではここまで実験的なことはなかなかできないので、子どもたちのリアクションや行動がとにかく面白かったですね。全く想像していなかった遊びもたくさん見ることができて、子どもたちのクリエイティブさに驚かされました。
取り組みを踏まえて、今後の展望
今回のワークショップを経験して、(スタジオ運営者として)ダンススタジオの新たな可能性を感じることができました。今はダンスレッスンやイベントというのが主な利用目的ですが、アートワークショップも開催できるなと。他の地域では、ダンススタジオにフリースクールの機能を取り入れるという取り組みもあります。そういった活動の広がりに目を向ける機会になりました。
また、今回の取り組み内容であるトイレットペーパー使ったワークショップという点については、教材化へのさまざまな課題を見出すことができました。大量のトイレットペーパーは、その非日常感や特別な面白さがある反面、資源としての素材の大量廃棄の問題があり、今後は持続可能性を踏まえた教材開発へと発展させたいと考えています。また、アーティストそれぞれの即興性を今後どう教材へと落とし込んでいくかという点も課題です。
そうですね。今回は私自身が参加しましたが、今後もしこのワークショップを教材して多方面で展開する形に広げていくのであれば、この即興的な要素をどうパッケージ化するのか検討する必要があるでしょう。個人的な興味として、このワークショップに今回のように音楽が含まれている場合と、そうではない場合の違いや子どもたちへの影響にとても興味が湧いたので、そういったことも検証できたら面白いと思います。
トイレットペーパーという素材に関しては、ちぎった時の粉塵が気になりました。アレルギーのある子どももいるので、今後はそのような点にも配慮して改善していくことができたら良いですね。
私は普段千歳市で活動していますが、今回のように教育とアートをつなぐ現場、とくに気軽に実験的なことを試せる場というのが千歳市にももっと増えたら良いと感じました。千歳市は子どもも多いので、ぜひこういった場が増えるとみなさん楽しんでいただけると思います。
おわりに
川田さんから「言語を使わずにこんなに子どもたちと楽しく活動できたことに驚いた」という言葉をいただき、とても驚きました。逆に小さな子どもたちと言語でどうやってコミュニケーションを取るのだろうと思ったからです。そういう点で学びがありましたし、異なる業界同士、互いの得意分野を活かしてコラボレーションすることの面白さも感じました。
絵画や音楽、ダンスなど、アートにはノンバーバル(非言語的な)な要素が強い表現方法がたくさんあります。言葉を使わないので、異なる言語話者同士のコミュニケーションにも活用できたり、ものごとを抽象化したりする上で、その良さが発揮されます。そういった観点から、アートと教育のコラボレーションを見つめてみても面白そうですね。
子どもたちの集団の中にいると、やはり活動的な子に目が行きがちですが、川田さんは全員に目を配り、それぞれに合った形で寄り添っている姿も印象的でしたね。言葉の選び方やアプローチの仕方など、大変勉強になりました。
今回のコラボレーションはアーティスト三名の対応力が素晴らしく、全体的にうまくいったという印象があります。一方で失敗から学ぶことも多いので、あまりうまくいきすぎても…なんて思ったりもしていましたが、今回お話を伺ってそれぞれ課題や学びを見つけていただいたということなので、良かったなと思いました。
汎用性の話が出ましたが、教材だからといって必ずしも汎用性が高い必要はなく、ここでしか味わえない体験や、このアーティストとしかできないワークショップというものの価値もあります。もちろん「誰でもどこでも再現できる」という教材の良さもあります。どちらかだけではなく、どちらもあるという状態が望ましいと考えます。
今回のようなワークショップというのは、アート界隈の人間からすると、枠組みさえきちんと決まっていれば、ある意味ではそう難しくなくできることだと思うのですが、実はこれって世の中の当たり前ではないと思うのです。
このアーティスト達の非凡なクリエーション能力を川田さんを通して世の中の人に知ってもらえたら、それはそれで大きな意味を持つのではないかと思ったりもしています。


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