教材開発・探求学習支援プログラム2025[保育×アート]
「非日常空間で、誰もが楽しめる体験を」川田由紀 終了後インタビュー
写真:yixtape
【教材開発や探求学習を支援する助成プログラム】の採択者のひとりである訪問保育ひかりの保育士・川田由紀さんに、振り返りのインタビューを実施しました。
実施内容について
川田さんは、事前リサーチとしてアーティストとのトークセッション「教育者 Meets アーティスト」に2回参加。各回で斉藤幹男さんと秋元さなえさんと対話し、それぞれのアーティスト活動やアートについての想い、アートの可能性について考えを深めました。
その後、ダンサー鈴木明倫さんとギタリスト山木将平さん、アーティストのNOJIさん(野沢宏志さん)との打ち合わせを経て、市内ダンススタジオでトイレットペーパーを使った表現遊びのワークショップ(約60分間)を行いました。
▶教育者 Meets アーティスト 「斉藤 幹男×川田 由紀」
https://artkids-net.com/ema-1-1/
▶教育者 Meets アーティスト 「秋元 さなえ×川田 由紀」
https://artkids-net.com/ema2-1/
応募理由、または連携する前に考えていた目標設定
※以下敬称略
川田:0~12歳までの子どもを対象とした訪問保育事業を行っています。私が日々保育の現場で取り組むアートや制作活動を、保護者の方が家庭内で再現したり、保育園や幼稚園などの先生方にも活用していただいたりすることによって、より大きな広がりを持たせることができないかと考えたのが応募のきっかけです。
とくに、子どもの年齢や発達段階、それぞれの興味・関心、個性などあらゆる多様性にも対応できるインクルーシブな内容のものができたらという思いがありました。インクルーシブという点では、子どもたちに対してだけでなく、保護者や先生方など、子どもを取り巻く大人の方々にとっても、得意・不得意に関わらず「誰もが簡単に活用できる」教材を作りたいという観点も持っていました。
私自身、保育の中で絵の具や感触遊びを取り入れてきましたし、子どもたちがそういう活動が大好きで喜んでいただけるということも分かっていました。表現活動のプロであるアーティストさんのエッセンスをプラスすることによって、さらに良いものができるのではないかと期待していました。
取り組みの中で印象に残っていること
今回の活動では、まず2名のアーティストさんと対談させていただきましたが、それらを通して私の中にあった「ものを作る」ということに対する概念が変化しました。アートや制作活動に対して、「楽しみながら行う」活動であるという前提は持っていたものの、やはり「ものを作る=形(結果)にする」という概念がありました。しかし、良い意味で自分の概念(思い込み)を崩していただいたと思います。常識とか枠組みとか、当たり前だと思っていたことについて改めて考える機会になり、頭が柔軟になりました。アーティストの方々は、人とは違うことにチャレンジしたり、何もないところからものを作り出したりする職業だと思いますので、彼らから受け取る発想が全て面白かったです。
2回の対談企画を経て、(スパークプラグアライアンスの)森嶋さんからの提案でダンサーの鈴木明倫さんとギタリストの山木将平さん、さらにアーティストの野沢宏志さんという3名のアーティストの方々をご紹介いただきました。対談で出会った方々のお話が本当に面白く、森嶋さんのご提案に全面的な信頼を寄せていましたのですぐにお願いしました。表現活動をどう教材開発に落とし込むのかということは私にとっては未知数ではありましたが、まずは「子どもたちが、アートを通して表現豊かに楽しむ時間を作ってみる」という意味で捉えました。複数のアーティストの方々と一緒に活動するという機会もなかなかないチャンスだと思いました。
今回の取り組みでは「家庭ではできないことを体験する非日常感」と「年齢・発達段階に関係なく楽しめるインクルーシブさ」という2つの大きなテーマを提示させていただきました。打ち合わせでは、アーティストの方々から多くのアイデアがどんどん出てくることに驚きましたし、話し合いの中でそれらのアイデアがさらにブラッシュアップされていく様子を見て、「この企画はいったいどうなっていくんだろう」とワクワクしました。私も一緒に参加したスタッフも、この体験を最大限楽しもうという気持ちで当日挑みました。保育士や幼稚園教諭という立場から「こんな要素があると、子どもは楽しいのでは」と提案させてもらったこともあります。
今回、題材として使ったトイレットペーパーは保育的な観点から見ると「運ぶ」「転がす」「引っ張る」「破る」などさまざまな動作に活用できる素材と言えます。ワークショップに参加した子どもたちは、それぞれ自分の好きな遊びを見出して楽しんでくれた点が印象深かったです。このワークショップを継続的に保育活動に取り入れるのであれば、さらに各自の発達段階に応じた動作の提案や働きかけを行うことによってさらなる広がりを持たせることができると思います。
アーティストさんとご一緒させていただき、大人の本気というか、彼らが一瞬一瞬にかける情熱を間近で感じることができたことは大変刺激的でした。それぞれの担当領域の認識と役割分担も的確でした。ちなみに、私は導入と締めの部分の担当でした。私は普段から「ダメ」という言葉を使わずに、子どもたちとのコミュニケーションを取るように心がけています。今回の導入でも「ダメ」という言葉は一切言わずに会場内での約束事やルールを伝え、誘導を行いました。
今回参加したお子様達も、最初は緊張している様に感じたので、彼女たちが安心して表現できるにはどうしたら良いか考えながらアプローチしました。もしもっとアクティブなタイプの子どもたちだったら、安全面に配慮することに気を使ったと思います。保育士としての瞬時の判断力や、とっさの行動力などが役立ったと感じました。
締めでは、子どもたちや保護者から「楽しかった」と言ってもらえてほっとしました。保護者の方々からは「トイレットペーパーであんな表現ができるなんて」とコメントいただき、みなさんにとって新しい気づきにつながったことがわかって良かったですね。
取り組みを踏まえて、今後の展望
参加してくれた子どもたちの表情が本当に素晴らしかったので、やはり「家庭ではできないことを体験する非日常感」と「年齢・発達段階に関係なく楽しめるインクルーシブさ」という2つの大きなテーマ性は、とても良いポイントだったと思います。手ごたえを感じたので、ぜひ今後もこういった機会や場所を創出していきたいと思いました。
今回は、子どもたちを対象としていましたが、親子対象としてみても面白いかもしれません。言葉を使わない活動なので、言葉を話し出す前の小さな子どもたちとのコミュニケーションの場にもなりそうです。
アートや表現活動には、遊びの要素が含まれます。この遊びがとても大事で、遊びを通して子どもたちは自分で考えることや、自分の気持ちに気づいて表現することなどを体験していきます。そして、自由に表現するためには、信頼できる大人が周りにいることが必要です。
今回の取り組みでも、最初緊張していた子どもたちが、アーティストとの関わり合いを通して徐々にほどけていき、「この人たちは安心できる大人だ」と気づいてから表情がぱっと明るくなりました。
おわりに
川田さんと約半年間にわたって活動を共にするなかで、保育や教育の現場における「管理」と「自然(野生)」のバランスや、「危険(スリル)」と「安全」のバランスなどについて、改めて考えさせられました。
アートの場合は、管理や安全を厳しくすぎると、主体性や魅力が失われてしまう場合もあります。
ただ、だからといって面白ければ何でも良いのか、危険やリスクがあっても良いのかといえば、決してそんなことはありません。
現場では状況に応じた判断や、バランス感覚がとても大切であると感じています。
教材開発については今回は試験的な要素が強く、参加者は一般募集ではなく、関係者経由で集めました。
舞台芸術の業界では「work in progress(ワーク・イン・プログレス)」といって、制作途中・完成未満の作品を試演することがあります。一度上演してみることによって新に活用されているのですが、今回の実践もそのイメージでした。
完全な教材になっていなくても、まずはやってみることで得られる経験値やデータ、終わった後に生まれるアイデアや議論を大切にできたらと思いました。
今回は限られた予算と時間の中でしたので、ご苦労もあったと思いますが、ぜひ今後も発展させていきたいと思っているので、引き続きよろしくお願いします。



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