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マネタイズのタネラボVol.1(地域おこし編)|地域で、アートを続けるための基盤をどうつくるか

投稿日 2026.08.07

マネタイズのタネラボVol.1レポート|地域おこし編 実施日|2026年8月4日 トピッカー|大橋武司さん(ダンスアーティスト/虹のプラザ文化芸術プロジェクト統括マネージャー)クエスチョナー|さとうまゆさん、景井雅之さん

POINTS

今回のタネラボのポイント

  1. 01地域で芸術を「やり直す」
  2. 02地域のための事業と、自分が続けるための理由
  3. 03まず必要なのは、理念よりも信用
ARTICLE本文

マネタイズのタネラボVol.1レポート|地域おこし編

「地域で、アートを続けるための基盤をどうつくるか」

実施日|2026年8月4日
トピッカー|大橋武司さん(ダンスアーティスト/虹のプラザ文化芸術プロジェクト統括マネージャー)
クエスチョナー|さとうまゆさん、景井雅之さん

大橋武司作 音楽劇「あの銀杏の木と6時の調べ」
地域で芸術を「やり直す」

「マネタイズのタネラボ」は、アートと地域、企業、教育、福祉など、一つのテーマに焦点を当て、実践者の経験と参加者の問いを通して、その可能性を少人数で掘り下げていく場です。

第1回は、山形県大石田町を拠点に活動するダンスアーティストの大橋武司さんを迎えました。

大橋さんは2021年、地域おこし協力隊として大石田町へ移住。自身のダンス経験や国内外のアーティストとのネットワーク、町の劇場施設などを生かし、アーティスト・イン・レジデンス事業「大石田AIR」を立ち上げました。
現在は地域プロジェクトマネージャーとして、滞在制作、公演、教育普及、アウトリーチ、人材育成、アーカイブなど、町の文化芸術を支える複数の事業に携わっています。

大橋さんが今回掲げたテーマは、
地域で芸術をやり直す
というものでした。

ここでいう「やり直す」とは、地域の芸術を外から来たアーティストが変えることではありません。
都会で身につけた方法をそのまま小さな町へ持ち込むのでもなく、地域にすでに存在する人、場所、制度、記憶を読み直しながら、自分自身の芸術活動のあり方を組み直していくことだと語られました。

地域のための事業と、自分が続けるための理由

大橋さんは、大石田AIRを始めた理由には「表の理由」と「裏の理由」があったと話します。

表の理由は、行政や地域に説明できるものです。

  • 町を訪れる関係人口を増やす
  • 外からの視点によって、地域の魅力を見直す
  • 町に新しい文化体験をつくる
  • 劇場や空き施設を活用する
  • 子どもから高齢者まで、学びや体験の機会をつくる

一方、裏の理由には、大橋さん自身がアーティストとして活動を続けるための切実な動機がありました。

  • 定期的に創作する
  • 舞台で踊る機会をつくる
  • 多様なアーティストと共同制作する
  • 自身の技術や感覚を磨き続ける
  • 将来につながるネットワークをつくる

地域のためだけでも、自分のためだけでもない。
地域に必要とされる役割と、自分が表現を続けるために必要な環境を接続すること。

この二つを重ねることで、活動を継続する基盤がつくられていきました。

まず必要なのは、理念よりも信用

地域へ入った初期に必要だったのは、大きな理念を語ることよりも、まず信用を積み重ねることだったと大橋さんは振り返ります。

自分が何者なのか、何ができるのかを、実際の踊りや企画によって見せること。
同時に、挨拶をする、約束を守る、片づけをする、行政の手続きやルールを理解するといった、社会人として当たり前のことを積み重ねる。

地域にとって、外から来たアーティストが何をしてくれる人なのかは、最初から明確ではありません。
だからこそ、言葉だけではなく、行動と結果によって少しずつ信頼をつくっていく必要がありました。

活動を続ける中で、助成金申請を手伝う職員や、企画を共に担う地域おこし協力隊、地域の文化団体など、少しずつ仲間も増えていきました。
個人の熱量から始まった活動が、複数の人によるチームへ変化していったのです。

小さな収入と制度を組み合わせる

地域で芸術活動を続けるためには、限られた予算の中で、資金の流れそのものをつくる必要があります。

大石田AIRも、最初から十分な事業費があったわけではありません。
当初は無料で開催していた公演を、2年目から500円、1,000円と段階的に有料化し、現在では一般料金2,500円を基本としています。
料金を上げても、来場者数に大きな変化はなかったといいます。

公演収入は任意団体の口座へ蓄積し、その年度の別の企画やアーティストへの謝礼に循環させる。
さらに、自治体として申請できる助成金と、任意団体として申請できる助成金を使い分ける。

ほかにも、

  • 地域おこし協力隊の活動費
  • 公演のチケット収入
  • 投げ銭
  • グッズ販売
  • 外部助成金
  • 地域住民による安価な滞在受け入れ
  • 劇場スタッフによる照明・音響の協力
  • 複数の協力隊員による活動費の持ち寄り

など、複数の小さな資源を組み合わせて事業を成立させてきました。
大橋さんは、低予算をただ我慢するのではなく、小さな収入や制度を組み合わせ、予算そのものを少しずつ増やしてきた」と説明します。

ここで語られたマネタイズは、単に公演で利益を出すことではありません。
制度、売上、人材、場所、設備、地域との関係を組み合わせ、活動が続く条件を設計することでした。

地域文化は、すでに誰かが生きてきた時間

地域でアートを行うとき、地域の文化や風景を、作品をつくるための「素材」として扱ってしまうことがあります。
しかし大橋さんは、地域文化を単なる素材として見るのではなく、生き物として捉える必要があると話します。

地域には、すでに活動を長く続けてきた人がいます。
人を集めることが得意な人、土地の記憶を知る人、何十年も地域文化を支えてきた団体がいます。
そうした人々の誇りだけでなく、長く続けてきたからこその疲れにも目を向ける。

アーティストが一方的に地域を利用するのではなく、自分から頼り、助けてもらい、ときには自分が手を貸す。その中で、貸し借りや関係性が生まれていきます。

地域文化は素材ではなく、すでに誰かが生きてきた時間である。
今回の対話の中でも、特に印象的な言葉の一つでした。

町を変えるのではなく、町が変わる動線を残す

芸術が町を直接変えるわけではありません。
地域にすでに存在する人、場所、制度、記憶をつなぎ直すことで、町の見え方や、そこに暮らす人の選択肢が少しずつ変わっていく

大橋さんは、自分が町を変えるのではなく、町が変わる動線を残すことを意識していると語りました。
外から来た人が「自分がこの町を変えた」と前面に立つのではなく、地域の人を主役として立たせ、その活動を後ろから支える。

公演回数や来場者数、売上、助成金の獲得額など、数字で見える成果も重要です。

一方で、

  • 使われていなかった施設が再び動き始める
  • 町の人が地域を自慢できる理由が増える
  • 少し変わったことをしてもよいという空気が生まれる
  • 子どもたちが出会える表現の選択肢が増える
  • 異なる団体や人がつながる

といった、数字では測りにくい変化もあります。

こうした質的な成果を記録し、行政の言葉へ翻訳して残していくことも、活動を個人の実践から地域の仕組みへ移していくために必要だと話されました。

無料から有料へ、どう移行するのか

話題となったのが、行政や地域に「無料で提供すること」を期待される中で、参加費やチケット料金をどのように設定していったのかという疑問です。
大橋さんの実践では、まず無料で公演を開催し、地域での認知や期待が生まれた段階から、少しずつ有料化していきました。

有料化にあたっては、

  • 事業にいくら必要なのか
  • 何に費用がかかるのか
  • 無料で続けた場合、何が維持できなくなるのか
  • 行政が負担しない部分を、どのように補うのか

を具体的に説明することが重要だと話します。

行政担当者自身が反対しているとは限りません。
その担当者が、上司や議会へ説明するための理由を必要としている場合もあります。

そのため、行政を説得するというよりも、行政が内部で説明できる理由を一緒につくるという視点が必要なのではないかという話へつながりました。

町の内と外をつなぐ「窓」

対話の終盤には、地域おこし協力隊や外部から来たアーティストは、町の内と外をつなぐ「窓」のような存在ではないかという話も生まれました。

地域の人になりすぎれば、外から来た人としての新しい視点が失われてしまう。
一方で、外部の人のままでいれば、地域との信頼関係はつくれません。

町の中へ入りながら、完全には同化しない。
地域の人から見て、少しよく分からない存在であり続けることが、アーティストとしての価値を保つことにもつながります。

地域に寄り添うことと、外部の視点を持ち続けること。
その間に立つバランスも、地域で表現を続けるための重要な条件として見えてきました。

個人の熱量を、次の人が始められる条件へ

大石田AIRは、大橋さん個人の熱量から始まりました。
その後、仲間が増え、地域の理解が生まれ、町の重要事業として位置づけられ、地域プロジェクトマネージャー制度へとつながりました。

しかし現在、大橋さんが向き合っているのは、さらにその先です。

行政では担当者の異動があり、個人の経験やノウハウが失われることがあります。事業が一人の能力や人間関係だけに依存していれば、その人がいなくなったときに継続できません

だからこそ、現在は事業を拡大することよりも、

  • 担当者が変わっても理解できる資料を残す
  • 行政内部で共有できる言葉へ変換する
  • 次の担い手を育てる
  • 個人の成果を、町の仕組みへ移していく
  • 次の誰かが活動を始められる条件を残す

ことに重点が置かれています。

大橋さんは最後に、今回の実践はあくまで一つの事例であり、すべての地域にそのまま適用できるものではないと話しました。
それでも、一つの強い企画を続けることで、そこから別の人や制度、仕事へと展開していく可能性はある。

今回のタネラボでは、地域でアートを続けることが、単にイベントを開催し続けることではなく、人、制度、生活、仕事、表現の関係を少しずつ編み直すことであると見えてきました。

そして最終的に残すべきものは、個人の成功ではありません。
次の誰かが、そこから始められる条件を残すこと。
地域に根を張りながら、アーティストとしての自分も失わない。

その両方を引き受ける実践の中に、地域でアートを続けるための小さな種がありました。

ダンスアーティスト
虹のプラザ文化芸術プロジェクト統括マネージャー

大橋 武司(Takeshi Ohashi)

愛知県武豊町出身。
中高の男子新体操競技の身体をベースに、NYをはじめとした海外での経験を経て、現在は骨や皮膚に着目した内側と外側の身体の操作と意識の移り変わりにアプローチする「タイソーテクニック」を開発し探求している。
居着かない、変わり続ける、触れる、骨と肉と意識を鍛えることが特徴。
空間に対する在り方から踊りを立ち上げるダンスアーティスト。

2016 年アメリカにてアーティスト Visa 取得。2017 年カーネギーホール公演「HANABI ネオジャパニーズミュージックアンドダンスショー」を主催し、Yasushi Soumatouを発表。
2017年アメリカ、日本のみならず世界各地への活動を視野に入れ、日本人男性で初となる欧米最大規模のアクロダンス機関 Acrobatic Artsの教師資格を取得。

2019年ベルリンに拠点を移し、長編ソロパフォーマンスTwomanを発表し成功に収める。
同時期にChristine Bonansea Company に所属しクリエイション、ダンスプロジェクトOH2に参加。
またEsselle Agencyのモデルとしても活動しポーランドSneaker StudioのCMのメインアクターとして出演。

その後拠点を東京に移し、CMやMV、舞台や自主公演企画など活動の場を問わず表現している。
主な振付作品に映像は凛として時雨「蝶の飛ぶ水槽」、Zen101「If I was a flower」など。近年の代表的な作品は神宮前Bonoboで行った「HaM」、「コンテンポラリーコーヒーセレモニー」「いきなり」、「PianoTrio[2023年グラミー賞ノミネート作曲家Andy Akihoとの共作]」など。
ドイツ在住の写真家タイナカジュンペイ氏と音楽家水野匠の音楽付きアートブック「WirfdieLuft空気を投げろ」を制作等活動は多岐にわたる。

2021年コロナ禍をきっかけに山形県大石田町に移住、町の地域おこし協力隊として芸術振興に携わり現在は虹のプラザ文化芸術プロジェクト統括マネージャー。

大石田AIRを立ち上げ、代表に就任。
国内外で活躍する様々なジャンルのアーティストを招聘し制作を共にし、運営業務を行う。
5年間で延べ50組を超えるアーティストを大石田に招聘している。

山形県民参加型の総合芸術パフォーマンス「OU」の製作総指揮を務め、チケットは完売となりその制作と本番の様子が、2022/4/13YTS「ゴジダス」にて特集が組まれ放送された。
大石田どきどきダンスフェスティバル1,2総合プロデュース、大石田町6時の時報制作や、2022年大石田町のCM大賞参加作品(特別賞受賞)制作、新しいマルシェイベント企画、旧鷹巣小学校の資料館としての再利用企画等様々な形で町を見つめなおすきっかけづくりを行い、大石田町の可能性を探り地方におけるパフォーミングアーツの価値作りをしている。

2024年から新たに中学校部活動地域移行に向けた対策として、町と共同でダンスクラブを発足。
大石田AIR滞在アーティストのWSをダンスクラブで行うことであらたな文化的循環を生み、子供たちやその保護者を中心に地域全体に学びの場を作っている。

主なパフォーマンスをした会場にCarnegie Hall、Judson Church、92nd Street Y、NY Live Arts、Dock11、Katapultなど。
代表的な作品にカーネギーホール公演「HANABI」、「TWOMAN」、「OU」、「あの銀杏の木と6時の調べ」。
活動実績はどきどきダンスフェスティバルプロデュース、大石田町6時の時報を公式に改変、大石田AIR代表など。
ダンサーとして、白井晃、平山素子、児玉北斗、クリスティンボナンジアなどの作品を踊っている。

近年の主な出演、作品発表歴
2017 「HANABI」カーネギーホール ニューヨーク/総合プロデュース、振付出演、制作
2018 「メモリーオブゼロ」神奈川県民会館 横浜 /出演
2019 ソロ公演「TWOMAN」カタパルト ベルリン /振付出演
   「クリスティンボナンジアカンパニー公演 OH2」DOCK11 ベルリン/出演
2021 「HAM」ボノボ 東京 総合プロデュース/振付出演、制作
2022 「OU」虹のプラザ 山形/総合プロデュース、振付出演、制作
2023 「YADORU」ダンスハウス黄金(レジデンス企画) 名古屋/振付
   大石田どきどきダンスフェス1 虹のプラザ/総合プロデュース、振付出演、制作
2024 「井上ひさしぶり」虹のプラザ/川西町フレンドリープラザ /総合プロデュース、出演、制作
   どきどきダンスフェスティバル2 虹のプラザ/総合プロデュース、振付出演、制作
   音楽劇「あの銀杏の木と6時の調べ」 虹のプラザ/振付、出演
2025 「地鳴らす、をどり」虹のプラザ/出演 振付/児玉北斗
   「芸術家は超自然に何を見出すか」虹のプラザ/出演、振付協力  振付/平山素子

アートのマネタイズを考える一年間とは?

「アートのマネタイズ」を、作品を売ることや収益を上げることだけに限定せず、表現活動を社会と接続し、持続可能な形で続けていく方法として考える一年間のプロジェクトです。

アーティストやアートワーカー、企業、行政、地域、教育・福祉関係者などが問いや実践を持ち寄り、対話やヒアリング、小さな実証実験を通して、新しい活動の可能性を探っていきます。

活動の一覧はこちら
https://artkids-net.com/am1/

この参加申込フォームは、今回のタネラボに新たに参加される方を対象としています。
新規にお申し込みいただいた方には、ご入力いただいたメールアドレス宛にZoomの参加URLをお送りします。

すでに「アートのマネタイズを考える一年間」へ、ポテンシャリスト/実証協力パートナー/オブザーバーとして登録されている方には、別途メールで参加方法をご案内しますので、本フォームからのお申し込みは不要です。
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PROJECT

アートのマネタイズを考える一年間

問いを持ち寄り、対話を重ね、走りながら考える一年間。わかりやすい答えに急がず、途中の問いも記録していくプロジェクトです。

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