アートのマネタイズを考える一年間|7月マンスリーレポート
まずは、声を集めることから
2026年6月末にスタートした「アートのマネタイズを考える一年間」。
「アートは、どうすれば続けられるのか」
「価値はあるのに、なぜ活動が続かないのか」
「作品を売ること以外に、どんなマネタイズの形があるのか」
そんな問いを持つ人たちとともに、一年間を通して考え、試していくプロジェクトです。
最初の1か月となる7月は、答えを急ぐのではなく、まずは異なる立場の人たちの実践や課題を持ち寄り、現在地を知ることから始めました。
ここでは、この1か月に行ったことと、そこから見え始めたことを整理します。
01|この1か月、何をしてきたのか
2026年6月25日にオンライン説明会を開催し、プロジェクトの趣旨や一年間の進め方について共有しました。
7月1日より全国から応募が寄せられ、アーティスト、アートワーカー、文化施設関係者、地域活動者、ビジネスパーソン、教育・福祉分野に関わる人など、さまざまな背景を持つ参加者が集まりました。
7月からは、主に二つの対話の場をスタートしています。
ひとつは、少人数でそれぞれの活動や課題を深く聞く「ポテンシャルヒアリング」。
もうひとつは、参加者全体で問いや実践を共有する「アートのマネタイズ会議」です。
また、8月から始まるテーマ別の対話企画「マネタイズのタネラボ」の準備も進めてきました。
プロジェクトの最初の1か月は、参加者同士がお互いの活動や背景をほとんど知らないところから始まりました。
特に道外から参加いただいている方にとっては、私たちのこれまでの活動や、他の参加者についての事前情報もほとんどない状態です。
そのため7月は、何かを結論づけたり、成果を急いだりすることよりも、まず私たちがこのプロジェクトをどのような姿勢で進めようとしているのかを知ってもらうこと、安心して話せる関係をつくること、異なる立場や考え方を持つ人たちが対話できる場を整えることを優先しました。
この1か月は、答えを出すための時間ではなく、互いを知り、それぞれが持っている問いを持ち寄るための時間だったと考えています。
02|数字で見る7月
7月末時点で、このプロジェクトには58名が参加しています。
参加者の居住地域は北海道内に限らず、全国に広がっています。
また、プロジェクト参加者だけでなく、アートのマネタイズ会議やタネラボなど、それぞれの企画に単発で参加できる「ビジター」の枠も設けています。
継続的に関わるメンバーと、その都度新しく加わる人たちが交わりながら、対話の場が少しずつ広がっています。
03|どんな人たちが集まっているのか
参加者を見てみると、「アーティスト」という一言ではくくれない、多様な立場の人が集まっています。
また、活動領域も、活動の方法もさまざまです。
04|対話から見えてきた共通課題
この1か月、応募フォームやヒアリング、会議を通して、非常に多くの課題が語られました。
一見すると、それぞれ異なる悩みに見えます。
しかし、少し引いて眺めてみると、いくつかの共通する構造が見えてきました。
結論を急がなかったことで、個々の課題を単純な成功例や解決策に押し込めるのではなく、その背景にある構造を少しずつ見ることができたような気がしています。
05|最初の1か月を終えて
このプロジェクトを始める以前から、私は「アートそのものに価値がないのではなく、その価値が社会とつながるための回路が十分につくられていないのではないか」と考えてきました。
7月の対話を通して、その問いが、少しずつ具体的な形を持ち始めています。
また、参加者を見渡すと、ひとつの気づきがありました。
「音楽の人が非常に少ない」
考えてみると、音楽にはすでにさまざまな回路があります。
YOUTUBE、サブスク、ライブ、フェス、舞台、CD・配信、音響、CM、映画、ゲーム、カラオケ、音楽教室、楽曲提供……
むしろ、昔と比べて今の方が回路が充実している可能性すらあります。
もちろん、そこに競争がある以上「音楽家は困っていない」という訳ではないのですが、大事なのは
「音楽をお金と交換する方法を、社会がすでに知っている。」
ということなのではないでしょうか。
なので音楽家の課題は回路がないことではなく、既存の回路の中でどう食べるかということになっていきます。
(もちろん上記に当てはまらない方もいらっしゃいますが)
ダンスでも、習い事と接続している領域には回路があります。
たとえば習い事としてのダンスには、「踊りたい人 → 教室 → 月謝 → 講師」という、社会が理解している回路がすでにあります。
スタジオもある。発表会もある。先生という職業もある。月謝という価格体系もある。
「子どもにダンスを習わせる」という消費行動そのものが社会に定着している。
だから、ダンサーが「ダンスには非言語のコミュニケーション能力を育むという価値がありまして……」と毎回ゼロから説明しなくても、お客さんはお金を払ってくれるのです。
一方でコンテンポラリーダンスになると、急に話が変わります。
コンタクト・インプロなどの非言語コミュニケーション、総合芸術としての創作性などの価値は、社会に広く伝わっているとは言い難い現実があるのではないでしょうか。
コンテンポラリーダンスのほかにも、演劇、オペラ、現代アート、インクルーシブな実践などには、公共文化や助成制度という重要な回路はありながら、それ以外の選択肢が十分に育っていないケースが多いと感じています。
つまり、「アートはマネタイズできない」というより、価値を社会と交換するための回路の数や太さに、大きな差がある。
今のところ、そんな構造が見え始めています。
NEXT|8月へ
構造が見えることと、新しい価値を生み出せることは別の話です。
「企業とつながればよい」「地域で活用すればよい」「福祉や教育に届ければよい」
言葉にするだけなら簡単です。
本当に必要なのは、「誰に、どんな価値を届けるのか。」「なぜそれが必要なのか。」「誰が対価を払い、誰が担い、どうすれば継続するのか。」
そこまで含めて、新しい関係や仕組みを実際につくることです。
8月は、「マネタイズのタネラボ」がスタートします。
地域、企業、ワークショップなど、具体的なテーマごとに実践者の話を聞きながら、アートが既存の社会とどのようにつながり得るのかを考えていきます。
同時に、ポテンシャルヒアリング、アートのマネタイズ会議も継続します。
答えを急がず、小さな声も拾いながら、しかし対話だけで終わらせないように。
一年間、走りながら考えていきます。
現時点で見え始めた目的地
まだ始まったばかりですが、濃密な対話を重ねるなかで、この一年間の先にあるものが、ぼんやりと見え始めています。
それは、
芸術の再定義と、社会への再配置。
「社会連携」という言葉があります。
しかし、ただ社会とつながればよいわけではありません。
改めて、自分たちが扱っている芸術とは何なのか。
そこにはどのような価値や可能性があるのか。
その根源とあらためて向き合い、社会に届く言葉へ翻訳する。
そして、その価値が必要とされる場所へ届く回路を整え、社会の中にあらためて配置していく。
再定義し、翻訳し、回路をつくり、再配置する。
まだ遥か遠くにある目的地ですが、この一年間を通して、少しずつそこへ歩みを進めていければと思っています。
アートのマネタイズを考える一年間とは?
「アートのマネタイズ」を、作品を売ることや収益を上げることだけに限定せず、表現活動を社会と接続し、持続可能な形で続けていく方法として考える一年間のプロジェクトです。
アーティストやアートワーカー、企業、行政、地域、教育・福祉関係者などが問いや実践を持ち寄り、対話やヒアリング、小さな実証実験を通して、新しい活動の可能性を探っていきます。
活動の一覧はこちら
https://artkids-net.com/am1/



コメント