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02 マネタイズのタネラボ Vol.3

マネタイズのタネラボVol.3|古くて新しい経済編「地域通貨と新しい経済システムの視点から、アートのマネタイズを考える」

実施日 2026.09.03

地域通貨とDAOの実践から、アートのマネタイズを考える 「マネタイズのタネラボ」は、アートと地域、企業、教育、福祉など、一つのテーマに焦点を当て、実践者の経験と参加者の問いを通して、その可能性を少人数で掘り下げていく場です。

POINTS

今回のタネラボのポイント

  1. 01お金の仕組みそのものから考えてみる
  2. 02防災を、特別な出来事にしない
  3. 03市場では値段がつかないものを、もう一度動かす
ARTICLE本文

地域通貨とDAOの実践から、アートのマネタイズを考える

お金の仕組みそのものから考えてみる

「マネタイズのタネラボ」は、アートと地域、企業、教育、福祉など、一つのテーマに焦点を当て、実践者の経験と参加者の問いを通して、その可能性を少人数で掘り下げていく場です。

第3回のテーマは、「古くて新しい経済」。

今回は、宮城県東松島市のKIBOTCHAを舞台に、地域ポイントやDAOを活用した新しいコミュニティと経済の仕組みづくりに取り組む、DAO設計士の澤海渡さんを迎えました。

アートのマネタイズを考えるとき、私たちはつい、作品をどう売るか、誰からお金を得るか、どのように仕事を増やすかを考えます。

しかし澤さんが最初に投げかけたのは、その前提に立ち返る問いでした。

なぜ、私たちはマネタイズをしなければならないのでしょうか。
なぜ、表現することと、お金を得ることの間に、これほどの苦しさが生まれるのでしょうか。

今回は、地域で進められている一つの経済実験を手がかりに、「お金」「価値」「交換」、そしてアートのマネタイズを、いつもとは少し違うところから考えました。

防災を、特別な出来事にしない

KIBOTCHAは、東日本大震災で津波被害を受けた旧野蒜小学校を再生した、防災体験型宿泊施設です。

その周辺では現在、災害時にも1万人が衣食住を維持できる未来型の防災拠点を目指し、「KIBOTCHAスマートエコビレッジDAO」の取り組みが進められています。

土壌を再生する。
作物を育てる。
水を確保する。
エネルギーをつくる。
土を使った建築技術を試す。

こうした活動は、防災のために必要であっても、すぐに利益を生むとは限りません。すべてを円で支払おうとすれば、膨大な資金が必要になります。一方で、社会的に意義があるからと、参加者の善意や無償のボランティアだけに頼っても、長く続けることは困難です。

そこで着目したのが、地域の中にある「余りもの」でした。

市場では値段がつかないものを、もう一度動かす

地域には、商品として販売されないまま、使われずに終わるものがあります。

宿泊施設の空き部屋。
規格外の野菜。
小粒の牡蠣。
提供できずに余った食材。
商品としては出せない、酵母で濁ったビール。
処分される予定だった鶏。

ものだけではありません。

誰かの空いている時間や、使われていない技術、ちょっとした得意も、見方を変えれば余っている資源になります。

KIBOTCHAでは、田畑の整備や施設の清掃などを手伝った人に、独自のポイントを渡しています。そのポイントは日本円に換金するものではなく、空き部屋への宿泊や、余った食材を使ったまかない、地域で活用されていない物品などと交換できます。

加盟店側も、受け取ったポイントを使って、忙しい時期の手伝いや、SNSの発信、ホームページ制作などを依頼できます。

これまで捨てられていたものと、これまで頼みにくかった小さな仕事がつながり、地域の中を巡り始めます。

「労働未満、ボランティア以上」

友人の引っ越しを少し手伝ったとき、突然千円札を渡されると、かえって距離を感じることがあります。

一方で、何も受け取らずに手伝い続ければ、負担や不公平感が生まれるかもしれません。

澤さんは、このポイントが扱う領域を、

「労働未満、ボランティア以上」

と表現しました。

たとえば、開かなくなった瓶のふたを開けてもらう。
少しだけ車で送ってもらう。
屋根の修繕を手伝ってもらう。

円で値段をつけるほどではないけれど、確かに誰かの役に立っている。ポイントは、そうした小さな助けや感謝を、重すぎない形で交換するための媒介になります。

クエスチョナーの鈴木さんは、この仕組みについて、「お金になるか、ならないか」という二択の間にグラデーションをつくっているのではないかと話しました。

仕事か、趣味か。
有償か、無償か。
商品か、廃棄物か。

そのどちらにも収まりきらない領域にこそ、人の大切なエネルギーが存在しているのではないか。その言葉から、対話はアートの営みにもつながっていきました。

円と交換できないから、循環が続く

対話の中では、「なぜ円ではなく、独自のポイントを使うのか」という質問も出ました。

一般的な地域商品券は、店で使われたあと、事業者によって円へ換金されることが多く、そこで循環が終わります。

一方、KIBOTCHAのポイントは円へ換金できません。受け取った人が、そのポイントで誰かに仕事を頼んだり、別の余剰資源と交換したりすることで、コミュニティの中を回り続けます。

澤さんは、この状態を、あえて経済圏を「閉じる」「鎖国する」と表現しました。

ただし、閉じることで循環が生まれる一方、そのコミュニティの外にいる人へ価値が届きにくくなる可能性もあります。

アーティストにとって、内部に支え合う関係が生まれることは心強いことです。しかし、それが仲間内だけの評価や交換にとどまれば、まだ出会っていない観客へ作品を届ける機会を狭めるかもしれません。

コミュニティを深くすることと、社会へ開くこと。その両方をどのように成立させるかは、今後も考える必要があります。

循環は、自然には整わない

KIBOTCHAでは、ポイントで暮らせる仕組みが注目され、多くの人が訪れるようになったことで、「食料危機」が起こったといいます。

利用する人は増えたものの、交換できる余剰食材が同じように増えたわけではありません。やがて、まかないを提供するために、新しく商品を購入しなければならない状態になりました。

それでは「余っているものを循環させる」という前提が崩れてしまいます。

さらに、毎日の調理のような継続的な作業を担う人が不足する問題も起こりました。そこで調理に支払うポイントを増やし、必要性に応じて価値を調整していったといいます。

何に、どれだけのポイントを渡すのか。
誰がポイントを発行するのか。
必要な仕事と、自然に生まれる活動をどう分けるのか。

こうしたルールは、完成されたものとして最初から存在するのではなく、問題が起こるたびに話し合いながら更新されています。

新しい経済をつくることは、通貨を発行すれば終わる話ではありません。何を価値と認め、誰がそれを決め、需要と供給のずれをどう調整するのか。その運営自体が、大きな実験であることも見えてきました。

マネタイズが必要なのは、すべてを自分で調達するから

澤さんは、アーティストである妻の「さわのよめ。」さんとともに、KIBOTCHAへ移住しています。

日々、土や植物に触れ、田畑を手伝い、地域で得られた素材を使って作品をつくる。活動によって得たポイントは、食事や宿泊など、暮らしの一部へ戻っていきます。

そこでは、生活のために行うことと、作品をつくることが、完全には切り離されていません。

かつて、土地の木を切って家を建て、その端材から道具や工芸品がつくられ、自然への祈りから表現や祭りが生まれていたように、暮らしの流れの中から文化が立ち上がります。

一方、現代のアーティストは、生活費も、制作場所も、作品の素材も、それぞれ円で調達しなければなりません。そのために表現とは直接関係のない仕事をし、そこで得たお金を、再び制作へ戻します。

澤さんは、

「マネタイズが必要なのは、全部を自分で調達する必要があるからではないか」

と問いかけました。

より多く稼ぐ方法を考えるだけでなく、暮らしや制作に必要なものを、別の関係の中で得られるようにする。

そう考えると、マネタイズとは収入を増やすことだけではなく、活動を続けるために必要な支出や負担を減らし、生活と表現の流れをつなぎ直すことでもあります。

目的から逆算するのではなく、結果として生まれるもの

対話の後半では、組織や事業をどのように設計するかという話にも広がりました。

一般的な事業では、最初に明確な目的を置き、そこから逆算して、必要な人材や行動、予算を決めていきます。

しかし、目的に役立つものだけを残していくと、遊びや余白は削られていきます。社会的に正しい目的であっても、そのために現在の自分を消費し続ければ、人は疲れてしまいます。

澤さんが目指すのは、「目的論の事業デザイン」ではなく、「結果論の事業デザイン」だといいます。

どんな森をつくるかを細部まで決めるのではなく、水の流れや地形、気温のような環境を整え、そこにどのような生態系が生まれるかを委ねる。

将来こうなればよいという「祈り」は共有する。けれど、一人ひとりの行動まで目的によって縛らない。それぞれが自分のやりたいことを行った結果として、全体が少しずつ調和していく状態を目指します。

貨幣とは、何を大切にするかという「評価」

「貨幣とは何か」という問いに対して、澤さんは、

「貨幣とは評価である」

と話しました。

日本円を中心とした経済では、大きな市場と接続した仕事に、高い金銭的価値がつきやすくなります。一方で、草を刈ること、食事をつくること、誰かの話を聞くこと、地域の文化を守ることなど、暮らしに欠かせなくても十分な対価が生まれにくい活動があります。

独自のポイントを設計することは、単に新しい支払手段をつくることではありません。

このコミュニティは、何を大切にするのか。
どんな活動を増やしたいのか。
誰の、どのような貢献を見つけたいのか。

その価値基準を、自分たちでつくり直すことでもあります。

ただし、一つの価値基準から自由になるためにつくられたコミュニティが、別の一つの価値基準で人を縛る可能性もあります。

誰が最初の理念やルールをつくるのか。
参加者は、どこまで意思決定に関われるのか。
その場所の価値観に合わない人は、どこへ行くのか。

価値観を多元化する仕組みだからこそ、その設計と権限のあり方を問い続ける必要があります。

「国という作品」に、アーティストは必要か

森嶋からは、「このコミュニティで、アーティストはどのような役割を担うのか」という質問がありました。

澤さんは、二つの可能性を挙げました。

一つは、新しい共同体の精神や文化を体現する役割です。

論理や制度だけで、人が一つの共同体に属しているという感覚をつくることはできません。そこには、祭りや物語、象徴、装い、音楽など、同じ場所にいる人たちが共有できる文化が必要になります。

もう一つは、暮らしそのものを表現として生きる存在です。

耕すこと、素材を拾うこと、手を動かすこと、地域の自然や時間を感じること。その日々の営みから作品が生まれるなら、生活とアートの境界は次第に曖昧になります。

澤さんは、自身の仕事についても、

「国という作品をつくっている」

と表現しました。

新しい共同体の価値観を言葉にし、その土地の歴史や文脈を読み、共有される物語や「神話」をつくる。そこには、確かにアーティストの感覚と重なる部分があります。

一方で、「DAOにはアーティストが必要」という言葉が、必ずしもアーティストの作品を必要としているとは限りません。

求められているのが、コミュニティを魅力的に見せ、理念を可視化し、人々をつなぐ能力だけだとすれば、アーティストが共同体のための便利なデザイナーとして扱われる危険もあります。

DAOはアーティストの表現活動を支えるのか。
それとも、DAOを成立させるためにアーティストの能力を必要としているのか。

この違いも、今後の実践の中で確かめていく必要があります。

新しい経済だからこそ、見えてきた問い

対話では、ポイントと交換される物品や役務を、会計や税務の面からどのように扱うのかという質問も出ました。

澤さんからは、円と結びつかない「非財物」を交換する仕組みとして設計しているという説明がありました。一方で、何を交換の対象とし、その価値をどう記録するのかなど、具体的な運用については今後さらに整理が必要な点もあります。

こうした問いも含めて、新しい仕組みを持続可能なものにしていくためには、実践を重ねながら検証していくことが大切なのだと感じました。

※ポイント、物品、役務の交換に関する会計・税務上の扱いは、個別の制度設計や取引の実態によって異なります。

「どう稼ぐか」だけではない場所から

今回のタネラボで、アートを売るための新しい方法が見つかったわけではありません。

独自ポイントをつくれば、すべてのアーティストが生活できるようになるわけでもありません。コミュニティの中で評価されることと、まだ見ぬ観客へ作品を届けることも同じではありません。

それでも、澤さんの実践からは、マネタイズを別の角度から捉え直す視点が提示されました。

収入を増やすだけではなく、必要なものを自分一人で調達しなくてもよい関係をつくること。
市場では見過ごされる時間や技術、資源を、別の価値基準で見つけ直すこと。
作品だけではなく、表現が生まれる暮らしや環境そのものを育てること。

アーティストにとってDAOは、新しい市場なのでしょうか。
制作を支える共同体なのでしょうか。
それとも、新たな依頼主なのでしょうか。

そして、通貨の名前を変えるだけではなく、本当に価値の流れを変えるためには、何が必要なのでしょうか。

「どう稼ぐか」を考える前に、「なぜ、これほど稼がなければ続けられないのか」と問い直してみる。

その問いの先に、アートのマネタイズを考えるための、もう一つの入口が見えてきました。

PROJECT

アートのマネタイズを考える一年間

問いを持ち寄り、対話を重ね、走りながら考える一年間。わかりやすい答えに急がず、途中の問いも記録していくプロジェクトです。

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